楽曲解説 富樫鉄火(音楽ライター)
カルミナ・ブラーナ[全曲]C.オルフ作曲/J.V.マス=キレス編曲

 1803年、ドイツ南部ボイレン村の「ベネディクトボイレン修道院」で一冊の古写本が発見された。内容は11~13世紀に書かれた世俗歌謡詩で、自然・酒・性愛の歓びなどを、ラテン語やドイツ・イタリア古語でおおらかに詠ったものだった。しかも一部は中世の記譜法「ネウマ譜」で記されていた。つまりこれらの詩は「歌われていた」のである。
 この珍しい写本は、ミュンヘン王立図書館に収蔵され、分類整理後、1847年に『カルミナ・ブラーナ』と題して出版された。ラテン語で「ボイレン村(ブラーナ)の歌集(カルミナ)」という意味だ(「カルミナ」は「歌」の複数形。単数形が「カルメン」)。
 時が流れて1934年。ドイツの作曲家オルフが、古書目録の中に、この本を見つけた。興味を覚えて取り寄せてみたところ、一瞬にして魅せられてしまった。いわば“ヨーロッパの万葉集”である。なのに、現代感覚に溢れたエネルギーが感じられた。オルフは、友人の文学者の助けを借りて全250編以上の詩から24編をチョイスし、正式題≪楽器伴奏と舞台演技によって補われた、独唱と合唱のための世俗カンタータ~カルミナ・ブラーナ≫を作曲した。初演は1937年、フランクフルト・アム・マイン市立劇場にて。
 この正式題から分るように、本来は管弦楽+独唱(3人)+合唱(大・小・児童)に加えて舞台演技(舞踏)を必要とする、極めて視覚的な要素の強い作品である。主題の展開とか変奏とかは一切なし。ひたすら単純なリズムとフシが繰り返される野性的な音楽だ。輝かしいまでの明るさを基調に、下世話と品格、冗談と真摯、古楽と現代が同居する。実にユニークな音楽で、一夜にして20世紀を代表する名曲となった。1冊の古本から生れた、音楽史に残る名曲。まさにシエナ20周年を飾るにふさわしい、歴史的な演奏会といえよう。

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この曲は吹奏楽でもよく演奏されており、コンクール全国大会でも、1984年に長岡市吹奏楽団が初演して以来、20回以上登場している人気曲である。現在、吹奏楽版はクランス版、モーレンハウト版、マス=キレス版などがある。クランス版はバンドのみで演奏できるように編曲された13曲抜粋版。コンクールで使用されるのはほとんどこのスコアで、どの団体も抜粋組み合わせを工夫して演奏している。8月20日公演のホアン・ヴィンセント・マス=キレス版は、声楽を含む全25曲完全版。今回は、歌詞要旨の朗読を織り交ぜながらの、独特な演奏スタイルとなる。
作曲者カール・オルフ(1895~1982/ドイツ)は、作曲家・教育家・研究家など様々な顔を持っていたが、ルネッサンス~バロック期の巨人モンテヴェルディを発掘し、ドイツ圏内で再認識させた人でもある。

≪カルミナ・ブラーナ≫ 構成と曲名、歌詞大意

世界の支配者フォルトゥーナ(運命の女神) Fortuna Imperatrix Mundi

[1]おお運命の女神よ O Fortuna [合唱]
最近はバラエティのBGMにさえ使用される有名曲。「運命の姿は月のように変わって行く。健康もパワーも運命が奪っていく。運命の車輪の下で共に泣こう!」と、半ば厭世的な嘆きが詠われる。
[2]運命に傷つけられて Fortune plango vulnera [合唱]
前曲とともに、全体の主要モチーフ曲。同じスコアが歌詞を変えて3回繰り返される。「幸運もすでに遠い。運命の輪は回る。トロイの女王ヘクバの名も今では車軸の下だ」ここまでの深刻な曲想がプロローグで、次から一転、明るいムードの本章に入る。

第1部:早春に Primo Vere

[3]春の喜ばしい気配が Veris leta facies [小合唱]
第1部は自然讃歌。まずは合唱が静かな朗唱で雪融けを告げる。「冬は去った。春の女神フローラが現れ、太陽神フィブスは微笑み、美の女神ヴィーナスは歌う」
[4]太陽は万物をいたわる Omnia Sol temperat [バリトン独唱]
引き続き静かな朗唱で春の訪れを描く。「新しい世界が4月の地上にやってきた。誰もが愛し合い、運命の車輪によって回る」
[5]見てごらん Ecce gratum [合唱]
ひたすら快楽追求を賛美する、中世の聖職者の世界ではかなり不謹慎な内容の歌。「春の訪れが歓喜を取り戻す。悲しみよ去れ! 乳房を吸い、人妻をも我が物に」

草上にて Uf dem anger

[6]ダンス Tanz
 ここから「野外ダンス」に移る。まずはオーケストラのみでにぎやかな踊りの音楽。
[7]気高い森 Floret silva [合唱と小合唱]
合唱が「花は咲き乱れている」と歌うが、小合唱が寂しげに「でも私の昔の恋人はどこに行ったの?」とぼやく掛け合い。
[8]おじさん、頬紅ちょうだいな Chramer, gip die varwe mir [ソプラノ2人と合唱]
女の子が小間物屋に頬紅を買いにくる。「きれいになって若い男の子たちを楽しませ、モノにしよう」と、実に積極的。
[9]ワルツReie~ここで輪になってSwaz hie gat umbe~おいで、わが恋人よChume,chum,geselle min ~ここで輪になって[小合唱と合唱]
乙女たちが踊っているが「誰も男を欲しがらない」。その一方で「わが恋人よ、私に快楽を与えておくれ」と懇願する声も聴こえてくる。
[10]世界が我が物となっても Were diu werlt alle min [合唱]
前半のクライマックスで、一種の“不敬罪ソング”。「世界が我が物となっても、俺は貧乏を望むぜ。英国王妃をこの腕で抱くためにもね、ヘイ!」金管の見せ場でもあるが、アマチュア吹奏楽団にとっては、もっともボロが出やすい難所として知られている。

第2部:居酒屋にて In Taberna

[11]怒りを胸に秘め Estuans interius [バリトン独唱]
第2部は酒が入っての大宴会。まずは「どうせ健康も気にせず、未練だらけの人生を送るのさ」と、まるで現代人の苦悩を代弁してくれているようなボヤキ歌。
[12]かつて私は湖に住んでいたが Olim lacus colueram [テノール独唱と男声合唱]
通称≪炙られる白鳥の歌≫。串刺しにされ焼き鳥として炙られる白鳥のお別れの歌。「もはや皿の上。コックが来た。もうすぐ私を食べる人間の歯が見える。情けない」こんな面白い歌が中世にあったとは。オルフの音楽も傑作である。
[13]予は大修道院長様なるぞ Ego sum abbas [バリトン独唱と男声合唱]
前曲に続く傑作コミカル曲。「予は大修道院長様。朝に酒場に来た者は、夕方には丸裸で追い出されるぞ。むごい運命を嘆きながら!」あからさまな聖職者批判で、これが修道院の中に残されていた詩だとは、ちょっと驚きである。
[14]我ら居酒屋では In taberna quando sumus [男声合唱]
第2部ラスト曲。「居酒屋では畑のことなど気にしない。教皇も王様も乾杯! 呑め呑め呑め呑め……」酒乱の極み。ラストも、本当に酔っているような見事な終わり方である。

第3部:求愛 Cour d’amours

[15]愛の神はあちこち飛び回る Amor volat undique [ソプラノ独唱と児童合唱]
第3部は性愛の喜びを詠う。まずソプラノが「恋人のいない女は、楽しみのない暗い夜を過ごす」と嘆くと、愛の神(児童合唱)が「そりゃひどい運命だね」と哀れむ。
[16]昼と夜のあらゆるものが. Dies,nox et omnia [バリトン独唱]
恋人もいない寂しい男が「乙女たちの話し声」を聴いて悶々と苦しむ。
[17]若い娘が立っていた Stetit puella [ソプラノ独唱]
「赤い衣の若い娘が立っていた。彼女に触ると……」最後の「エイア……」の掛け声には「さあ、このあとどうなったでしょう?」のニュアンスがある。
[18]私の思いはため息ばかり Circa mea pectra [バリトン独唱と合唱]
彼女に振られた男の嘆き。「恋人は来ない。あの子を処女から大人にしてやるはずだったのに」
[19]もしも若者と若い娘が同じ部屋にいれば. Si puer cum puellula [テノール3人、バリトン独唱、バス2人]
 「若い男女が室内で遊ぶ。手や足、腕や唇で」と、かなりポルノチックな歌。オーケストラなし、声楽のみで歌われる。
[20]来て来て来て Veni,veni,venias [二重合唱]
今風にいえばナンパの歌。「早く来て! 死にそうだ! 美しいあなたの顔……」バックはピアノ2台に打楽器群のみ。たいへんユニークな響きなので、お聴き逃しのないよう。
[21]揺れ動く天秤にIn trutina [ソプラノ独唱]
愛と慎みを天秤にかけるが「やはり愛に身をまかせるでしょう」。しっとりとした美しい断章。
[22]悦楽の季節 Tempus est iocundum [ソプラノ・バリトン独唱、合唱、児童合唱]
 まさに大快楽讃歌。「みんな愛に燃えている。全身が燃えて狂い死にしそうだ」かなり激しい内容である。
[23]愛しいあなたDulcissime [ソプラノ独唱]
 前曲のアンサー・ソング。「私のすべてをあげましょう」と迫ってくる。

ブランツィフロールとヘレナ Blanziflor et Helena

[24]讃えよ、優美な者を Ave formosissima [合唱]
 ここに至るまでいろいろあったが、ついに男女は結ばれる! 白い花(ブランツィフロール)とヘレナは、古代の理想的な男女の表象。「世界の光よ、世界の薔薇よ、ヴィーナスよ」と、究極の一大讃歌が奏でられる。これで大団円……と思いきや!

世界の支配者フォルトゥーナ(運命の女神) Fortuna Imperatrix Mundi

[25]おお運命の女神よ O Fortuna [合唱]
 ようやく幸福な結末が来たはずなのに、呆気なく冒頭の嘆きに戻ってしまう。一体、さっきまでの歓喜や快楽の賛美は、何だったのか? 
実はここがオルフの天才的なところで、運命は輪廻のように回っており、幸福と不幸は交互に訪れるものであると言っているのだ。つまり地球上から戦争も飢餓も消えない理由を、オルフは中世の世俗歌謡を用いて、あっさりと説いてしまったのである。だからこそ≪カルミナ・ブラーナ≫は、名曲である以上に、どこか恐ろしさを持った現代芸術作品でもあるのだ。

 

(注)本文中の曲名・歌詞などは筆者の拙訳大意で、朗読歌詞とは異なります。また声楽の編成は原曲スコアのもので、一部が変更になる可能性もあります。


主催:富士山河口湖音楽祭2011実行委員会
共催:山梨県、富士河口湖町、河口湖ステラシアタ-
後援:山梨県教育委員会 / 山梨県吹奏楽連盟 / 西関東吹奏楽連盟 /東京都吹奏楽連盟 / 東関東吹奏楽連盟 / 山梨県合唱連盟 / 山梨県高等学校文化連盟 /
   毎日新聞社 / 山梨日日新聞社 / 山梨放送 / テレビ山梨 / NHK甲府放送局 / FM-FUJI / 富士吉田市教育委員会 / 西桂町教育委員会 / 鳴沢村教育委員会 /
   忍野村教育委員会 / 山中湖村教育委員会 / 河口湖南中学校組合教育委員会
協力:題名のない音楽会 / 第28回国民文化祭山梨県実行委員会 / 兵庫県立芸術文化センター / 富士河口湖ふるさと振興財団 /
   富士河口湖町観光連盟 / 河口湖温泉旅館協同組合 /河口湖美術館 / 河口湖商工会 / 富士山有料道路管理事務所 / 河口湖オルゴールの森 /
   河口湖ショッピングセンターBELL / 富士観光開発(株)/富士急行(株) / 久保田一竹美術館 /キャピタルヴィレッジ / 甲府音協 ほか

※未就学児のご入場は保護者膝上に限り無料。ただし座席が必要な方は有料となります。尚、観覧可能な母子室はございませんので、予めご了承ください。
※10名様以上の団体料金がございます。ステラシアターへお申込みください。
※雨天の場合は可動屋根を設置し開催。但し建物の構造上、一部雨がかかるお席がございます。予めご了承ください。
※野外コンサ-トのため、気温等著しく変化する場合がございますので、予め厚手の衣類、帽子等をご用意下さい

コンサートチケットを各施設で掲示すると、以下の特典が受けられます。

  • 公演チケットで公演日を挟み3日間、河口湖オルゴールの森の入館料が300円特別割引となります。
  • 公演チケット提示で、富士観光開発各レジャー施設(富士スバルランドドギーパーク、地ビールレストラン・シルバンズ、富士眺望の湯・ゆらり、ふじてんリゾート・リリーパーク、富士緑の休暇村)が特別割引になります。
  • 公演演チケットを富士急ハイランドにお持ちになると公演日とその翌日に富士急ハイランド入園料が無料になります。(入園料1200円→無料)
    フリーパスは以下の特別料金になります。 ※7月から料金改定予定大人4800円→3000円、中人4300円→2700円、小人3500円→2300円

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